IPAとは?
概要
IPA(情報処理推進機構)は日本の独立行政法人であり、2004年に設立され、経済産業省の管轄下で運営されており、情報技術(IT)に関する様々な情報や支援を提供しています。特にエンジニアの方やITに興味のある方であれば、情報処理技術者試験の主催として認知されているのかなと思います。
しかし、IPAは資格試験などの人材育成以外にもセキュリティ情報や技術情報、各種調査報告書、標準化・ガイドラインなどさまざまな情報を提供しています。
例えば開発現場の知識やノウハウと体系化する開発標準の作成においては、IPAから刊行されているドキュメントは大変役に立ちます。具体的には非機能要件について確認したい場合はこちらを参考にします。またエンジニアのキャリアを考える場合、IPAでは社会に求められるITスキルや人材像が定義されたドキュメントがいくつもありこれも参考になります。具体的なドキュメントはこちらにあるDXスキル標準などです。
このようにIPAはIT分野における有益な情報を提供しているので活用しないともったいないですよね。本記事ではせっかくの情報をより活用できるようなヒントを解説していきたいと思います!
公的機関の情報が重要である理由
私がIPAの情報を信頼する理由は公的機関から提供されている点、さまざまなジャンルの情報が提供されている点にあります。
インターネット上にはたくさんの情報が溢れていますが、信頼性や根拠が不明瞭であることも少なくありません。例えばあるブログで「エンジニア未経験の方は〇〇な人が多い」という記事があった場合、「多い」というのは何を基準に多いと述べているかは気にかけてもいいかもしれません。というのも、周辺にいる数名を対象としている一般のエンジニアの方の見解とIPAがしっかりと調査をして未経験エンジニアは〇〇な傾向にあると述べた見解とでは根拠となる数字や信頼性は異なるからです。つまり誰が発信しているかに注意することはとても大事だと言えます。
加えて、上司から決裁を得るために市場調査をするなどエビデンスを求められるような情報を扱う場合、客観的な立場で事実が述べられている情報は価値があると考えられます。民間企業が実施する調査は場合によってはデータが恣意的に調整される可能性があります。例えば、チャットサービスを提供する企業の調査データでは自社のチャットサービスを悪く評価することは少ないはずです。一方、公的機関は民間よりもデータを恣意的に調整するメリットは少ないので信頼は高いと言えます。
もちろん民間企業や個人ブログでも有益な情報を発信している方はたくさんいますし、それらを参考にするのはとても有益です。大事なのはいろいろな情報源を検討して信頼性の高い情報を得ることですね!
システム開発向け情報
開発ガイドラインや調査データ
IPAでは開発に関わるガイドラインや調査データを提供しています。ここではよく参考にする2つのページについて紹介します。
ソフトウェア開発分析データ集のページでは、開発に関する規模や開発フェーズごとのデータが集められておりシステム開発の見積もりに役立てることができます。例えばソフトウェア開発分析データ集2022では下図のような情報が掲載されており、日本ではどのような開発が行われているかを把握することができます。ただし、開発データについてはSIerのウォーターフォール開発をベースにした情報が多く、いわゆる自社サービス開発企業におけるアジャイル開発のデータではないことに注意ください。
IPA, ソフトウェア開発分析データ集2022 P12
要件定義に関わる情報を得たい場合はシステム構築の上流工程強化(要件定義・システム再構築・非機能要求グレード)関連情報が有益です。ここには要件定義ガイドや非機能要件グレードなど要件定義に関わるが集約されており、要件定義や設計に関わる方には有益だと思います。特に前述した非機能要件グレードは一度は目を通した方がよいでしょう。
IPA, システム構築の上流工程強化(要件定義・システム再構築・非機能要求グレード)関連情報
セキュリティ情報
IPAには情報セキュリティ関連の情報も充実しています。
例えば重要なセキュリティ情報では、最新のセキュリティ問題について発信がされており、有名なツールやサービスの脆弱性が報告されることも珍しくありません。情報システム部門のセキュリティ担当の方は必見ですね!ちなみに情報セキュリティの情報源としてはJPCERTも有名ですので、ご参考ください。
また一般的な情報セキュリティの学習には情報セキュリティ10大脅威が有益だと思います。ITエンジニアはもちろん、一般の方でも情報セキュリティの脅威と対策についてはある程度把握しておく必要があります。最低限押さえておくべきセキュリティの知識が整理されていますので、自己学習や社員教育にも利用できるでしょう。
DX動向
国内動向
個人的に最近よくチェックしているのがDX白書(DX白書2023のリンクはこちら)になります。このDX白書にはDXに関わる動向や取り組み、人材、開発手法、海外動向など最近のIT業界に関わるトピックスを網羅的に扱っています。すべてを読み込むのは大変なので、総論だけでも読んでおくと現在のITトレンドを把握することができます。
目次・構成
第1部 総論
- 第1章 内産業におけるDXの取組状況の俯瞰
- 第2章 DXの取組状況
- 第3章 企業DXの戦略
- 第4章 デジタル時代の人材
- 第5章 DX実現に向けたITシステム開発手法と技術
- 第6章 「企業を中心としたDX推進に関する調査」概要
第2部 国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰
- 第1章 総論
- 第2章 国内産業におけるDXの取組状況の概観
- 第3章 国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰図
- 第4章 まとめ
第3部 企業DXの戦略
- 第1章 DXの取組
- 第2章 DX戦略の全体像
- 第3章 外部環境の評価と取組領域の策定
- 第4章 企業競争力を高める経営資源の獲得・活用
- 第5章 成果評価とガバナンス
- 第6章 先進技術を使った新たなビジネスへの取組
- 第7章 まとめ
- 企業および有識者インタビュー
第4部 デジタル時代の人材
- 第1章 日米調査にみるDXを推進する人材
- 第2章 デジタル時代における人材の適材化・適所化に関する国内動向
- 企業および有識者インタビュー
第5部 DX実現に向けたITシステム開発手法と技術
- 第1章 あるべきITシステムの要件
- 第2章 ITシステム開発手法・技術
- 第3章 データ利活用技術
- 企業および有識者インタビュー
付録
IPA, DX白書2023 目次
- 第1章 国内におけるデジタル関連制度・政策動向
- 第2章 米国におけるデジタル関連制度・政策動向
- 第3章 欧州におけるデジタル関連制度・政策動向
- 第4章 中国におけるデジタル関連制度・政策動向
海外動向
IT業界にいると海外のIT動向も把握したい場面があるかと思います。そこで海外のIT動向(特に政策)について把握したい場合は国内・欧米・中国のデジタル関連制度政策動向レポートが有効です。ここには日本だけでなく、欧米や中国のIT政策を網羅的に把握することができます。特に中国のIT動向は注目に値すると思いますのでこの資料を読みながら海外動向をキャッチアップするとよいでしょう。
「デジタル関連先進技術の制度政策動向調査レポート2022(欧米編)」の構成
- はじめに
- 第1章 デジタル関連の制度政策の全体像
- 1.1 米国におけるデジタル関連の制度・政策
1.1.1 デジタル関連政策を推進する環境整備
1.1.2 デジタル関連の制度政策- 1.2 欧州におけるデジタル関連の制度・政策
1.2.1 デジタル関連政策を推進する環境整備
1.2.2 デジタル関連の制度政策- 第2章 関連技術の制度政策
- 2.1 AI関連制度政策動向
- 2.2 IoT関連制度政策動向
- 2.3 ブロックチェーン関連制度政策動向
- 2.4 量子コンピュータ関連制度政策動向
「デジタルIT関連先進技術の制度政策動向調査レポート2022(中国編)」の構成
IPA, 国内・欧米・中国のデジタル技術関連制度政策動向レポート2022
- はじめに
- 第1章 デジタル関連政策を推進する環境整備
- 1.1 四大国策の更新状況
- 1.2 十四次五ヵ年計画におけるDX推進路線の背景
- 1.3 十四次五ヵ年計画に追記されたDX政策の内容概要
- 1.4 中長期科学技術発展規格概要の更新状況
- 第2章 デジタル関連の制度政策
- 2.1 「上雲・用数・賦知」行動推進と新経済発展育成に関する実施方案
- 2.2 国有企業におけるDX推進の加速化に関する通知
- 2.3 「中小企業におけるデジタルイネーブリング専門行動方案」
- 2.4 「全国民科学的リテラシー行動計画綱要(2021-2035年)」
- 2.5 DX推進に関する法規制
- 2.6 「技術封鎖」の潮流に関して
- 2.7 「新型インフラ構築」
- 第3章 中国企業のDX推進状況(清華大学調査)
- 第4章 関連技術の制度政策
- 4.1 AI関連制度政策動向
- 4.2 IoT関連制度政策動向
- 4.3 ブロックチェーン関連制度政策動向
人材育成向け情報
スキル標準・キャリアパス
昨今求められるIT人材は多様化しているため、どのようなスキルを身に着けるべきか、どのようなキャリアパスを歩むべきか悩むことが多いと思います。そこで役に立つのがデジタルスキル標準になります。
IPAの定義するデジタルスキル標準は2つに分かれており、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準にわかれます。DXリテラシー標準は主に一般の方向けの内容になっておりマインド面(Why、What、How)について定義されています。IT業界に携わっていない方からするとDXやITはどのような考えで触れていけばいいか悩んでしまいますよね。そこでこのリテラシー標準を利用してITへの向き合い方を学ぶことができます。
IPA, DXリテラシー標準(DSS-L)概要
DX推進スキル標準は具体的なITスキルやDX人材像について定義されており、キャリアを考える上でとても有益な情報となっています。下記の図のように5つの人材像が定義されており、それぞれが協業して課題解決に臨むことが想定されています。通常はSEやプログラマ、コンサルといった職種で会話をすることが多いかもしれませんが、ここに定義されている人材像やスキル定義を利用することで、自分のキャリアを考えたり他者のキャリアの考えを正確に理解することができるようになるでしょう。
IPA, DX推進スキル標準(DSS-P)概要
未踏事業
未踏事業は次世代のIT人材育成プログラムで、簡単に言ってしまうと若くしてITに長けている人材をどんどん育成しようといった趣旨の事業です。いろいろなカテゴリで突出したIT人材の育成を事業としており、参考までに紹介をします。
私は未踏事業で表彰された方のセミナーで未踏事業について知りました。セミナーの中ではこの事業で表彰を受けるレベルの方々のプロダクトやスキルレベルを紹介していましたが、どなたも圧倒的でこんな方々が世の中にいるんだと感銘したのを覚えています。業務に直結する情報ではありませんが、小ネタとして未踏事業を知っておくのもよいかもしれません。職場にいるスーパーエンジニアの方はもしかすると未踏事業出身かもしれませんよ!
まとめ
今回はIPAが扱う情報について紹介しました。マクロな視点でITに関わる情報がほしいとき、IPAの情報はきっと役に立つと思います。この記事で紹介された情報以外にもご自身の関心の高い情報がないか、ぜひ調べてみてくださいね!